美沙子の章

4/6
前へ
/11ページ
次へ
私立小に通う娘は、学校の授業が終わった後で英語と体操を習っている。 だから、ランチが終わり、他のママ達がお迎えに行く時間になっても、私は、ゆったりとお茶や買い物を楽しめる。 都心の店は入れ替わりが激しく、老舗が立ち並ぶ通りに海外や国内ブランドの廉価版、カラオケやネットカフェも目立つ。 時間がある時は、買い物をしたり、めぼしい物が無い時は一人でネットカフェに行く。 最近のネカフェは少し前のオタクの巣窟と言った感じでは無く、高級感を売りにしていて清潔だ。 女性専用ラウンジもあるので、不快な思いをする事は無い。 私は使った事は無いがシャワーの設備もある。 ママ友達とのランチは楽しいけれども、やはり何処かで気を使っているのだろうか、ネカフェのソファに座ると、ホッとして自然な自分に還る気持ちになる。 ドリンクバーからコーヒーを持ってきて、席につくと、する事はだいたい決まっている。 備え付けのパソコンから「ランチの女王」サイトにアクセスするのだ。 慣れた操作でマウスを持つ手もスムーズに動く。 次は、どんなレストランにしようか、チェックして見る。 それから、いつも秀幸の店のページに進むのだ。 さて、何て口コミを書こうか、評価を表す星の数は、今日はちょっとオマケしてあげよう。 星三つにした後で、レビュー本文を書き始める。 「これで二回目の来店です。最初に伺った時は美味しいと思ったのですが、今回はう~ん… パスタは何だか塩辛くて少し冷めてました。どうしたのだろう、シェフが替られたのかな??」 私は秀幸のイタリアンレストランに一度も行った事は無い。 それどころか、大学卒業以来顔を合わせた事は無く、秀幸の近況はもっぱら由美からの情報だ。 でも、「ランチの女王」サイトに紹介された店内や料理の写真で、自分が何回も足を運んだ常連客に思えて来る。 秀幸の店の写真は飽きるほど見たので、すみずみのインテリアまで詳細に記憶している。 彼の店のページに行くと、本当に自分が見て来たような言葉がスラスラ書けるのだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加