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その小男は俺がこの墓地に足を踏み入れてから、チラチラとこちらの様子を窺っていた。
うす汚れたボロをまとい泥まみれの顔のせいで年端はハッキリ分からないが、目を見る限り案外若そうだ。
上半身の筋肉が無数に墓穴を掘った事実を物語っている。
近づくにつれ自分の背より柄の長いシャベルを持つ手に力が込められのているを感じとった。
どうやら俺を警戒しているようだ。
無用な暴力沙汰は避ける主義なので、両手を革製ロングコートのポケットからだし敵意は無いことを伝えた。
「あんた、この墓地の番人かい?」
小男は酸素不足の魚のように口をパクパクし、肩をすくめた。言葉が通じないのか?
よく見ると舌が不完全の形をしている。半分以上無いのだ。先天的なものか後天的なものか知らないが、舌が無くて喋れないことは分かった。
「あんたのボスはどこにいる?」
小男は口をモゴモゴさせて東の方に指を差した。
その方向に目をやると、少し離れた場所に掘っ立て小屋らしき物が見えた。
俺は小男に軽く礼を述べ、その場を後にした。
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