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驚いた加嶋は桜間の腕を引いて、レッスン室に入っていく。当たり前だが、そこに黒江の姿はない。
「どーした?」
優しい声で聞いてくれる加嶋。
「・・・・」
「黒江先生に何か言われた?」
「っ~~~~」
黒江の、勝手にしろ、と言った言葉を思い出し、余計に涙が零れてしまう。
なんとか耐えようと手の平を握ったり、唇を噛み締めたりするけれど、涙は止まってはくれない。
「当たりか・・・」
「す、すみませ、」
「いいって、謝らなくて。俺もよく怒られて泣いてたわ」
あの人、言うこと厳しいからなぁ。根っからの音楽バカだし。
「でもサックス死ぬほど上手いから、より腹立つんだよな」
はぁ、と溜息をつくが、それはどこか演技くさくて。頑張って慰めようとしてくれているのが分かり、尚更申し訳なくなってしまう。しかし、
「・・・祐介」
「っ?」
名前を呼ばれたかと思えば、ポンポンと頭を軽く叩かれ、そして両腕で抱きしめられる。
知っている胸よりもどこか小さくて、抱きしめ方も違う。匂いも違う。
そして何より、
「ゃっ!」
好きな人じゃない。
そう思った瞬間、桜間は加嶋のことを突き飛ばしていた。
「あっ、すみまっ」
「そんなに黒江の方がいい?」
突き飛ばされ、後ろへとよろけた加嶋は俯きながら言う。
「竜、せんぱ?」
「俺知ってるよ?お前らが付き合ってんの」
コンサートのあと、一緒に消えてたし。
どこか感情がこもっていない声音で淡々と言ってくる加嶋に、桜間は恐怖を覚え「あの、あのっ」と首を横に振りながら腕を伸ばす。しかしその腕を取ることもせずに顔を上げ、まっすぐに桜間を見て加嶋は、
「俺も祐介のこと、好きなんだけど」
そう言った。
「祐介、俺なら黒江よりお前のこと大切にするしっ、」
「竜先輩っ!俺たちのこと、言わないでください!」
「・・・祐介?」
桜間はフラリと身体を揺らしながら加嶋の腕を掴み、お願いです!と縋る。
「もし大学にバレたら、黒江先生、ここにいられなくなりますよね?そんなの、絶対だめです・・・絶対」
「祐介落ち着けって、俺は別にっ」
「お願いです竜先輩、俺なんでもしますから!黒江先生が大学からいなくなるようなことだけはっ、俺なんかと付き合っていることは言わないでっ」
「大丈夫だから落ち着け!」
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