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大学にバラされると思った桜間はパニックになっており、加嶋は焦る。どうにか桜間を落ち着かせようと、大丈夫だと声を掛けようとすると。
―――ブー、ブー、ブー。
スマートフォンのバイブの音がレッスン室に響いた。
それに反応したのは桜間で。カバンの方に目をやると、加嶋がゆっくりと桜間の腕を下ろさせ、カバンへと近づく。そして何も聞かないでカバンの中からスマートフォンを引っ張り出して表示を見ると、そこには『黒江拓海』と書かれていた。
「竜せんぱ、」
「もしもーし」
そのまま加嶋はスイッチを押し、黒江からの電話を出てしまう。
瞬間、何か怒鳴り声が聞こえたが、加嶋は冷静で。
「祐介泣かせて何してるんだよ」
このまま俺のものにしちゃうから。
「じゃっ」
そう言い、電話を切る。
それを無言で見つめていれば、どこか悲しそうな笑顔を見せ「別に言わないぜ、祐介」と静かに言った。
「ただ、俺のことも視野に入れて欲しかっただけで」
「・・・ごめんなさい」
「即答かよ」
ふは、まぁそうだよな。
「知ってた」
「加嶋ぁぁあ!!」
バンっと扉が開く。
そこには珍しく息を乱した黒江の姿が。
「どこにいるとは言ってないのに、随分早いっすねぇ」
「てめぇっ・・・」
スマートフォンを戻しながら加嶋は呆れたように言うが、黒江は血が上ったままのようで、加嶋の胸倉に掴み掛かる。それに桜間は慌てて黒江の腕を掴んだ。
「先生!竜先輩は何もしてないから!」
「そうですよ、俺はアンタみたいに泣かせてないから」
「っ!」
どこまでも冷静に―――いや、どこか寂しそうに―――言う加嶋。
「ほら、怖い顔してないで早く祐介を攫えば?」
「言われなくてもそうする」
黒江はゆっくりと掴み掛かった腕の力を抜き、そして腕を掴んでいた桜間の手を掴み直す。
「あの、先生・・・」
「行くぞ」
「でも、」
「祐介」
躊躇ってしまう桜間に加嶋はニッコリ笑い「行きな」と背中を押した。
それに桜間は「ごめんなさい」と呟き、黒江に腕を引かれるままレッスン室から出て行った。
『お願いです竜先輩、俺なんでもしますから!』
「―――好きな奴を脅すことなんて出来るかよ」
出て行った二人を見送り、加嶋はポツリと零す。
「あーあ」
俺って、ほんとバカ。
そんな言葉と一緒にポトリと一粒。
床にシミを作ったのだった。
~ * ~
「ちょっと、わっ、黒江先生!」
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