音色に恋して2

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「まずは洗浄だ洗浄!」  殺菌するのはその後だ。 「なに意味不明なこと言ってるんですか!なんで服を着たままシャワーとかっ!」  車に乗せられたかと思えば無言のままマンションへと連行され、そのままお風呂場へと連れて行かれた桜間。  桜間はこの家のお風呂を使うのは初めてではない。ではないが、服を着たままお風呂に入ったのは初めてである。 「何かされてるかもしれねぇからな」  扉の前に立ち、逃げられないようにしながらシャワーでお湯を掛けてくる黒江に桜間は「何もされてませんって!」と顔を腕で拭う。 「そうやって庇う可能性もある」 「・・・ただ、抱きしめられただけです」 「あぁ?!」 「でもっ!」  桜間は濡れた身体も、相手が濡れることも気にせずに黒江の首に抱きつき、初めて自分から、そっと口付ける。 「でも・・・好きな人じゃないって思って」  突き飛ばしちゃったんです。  桜間は恥ずかしさから首元に顔を埋める。これはもうクセになってしまった。 「それで、先輩、俺たちの関係知ってて、で、どうしようって思って、」  でもでも、その前に、 「ごめんなさい」  桜間は少し離れ、しっかり目を見て謝った。 「俺、あのあと謝ろうと思って、その、」 「別にいい」  謝る桜間に対し、黒江はフッと笑い「俺も悪かった」と言った。 「お前が加嶋に懐いてるから嫉妬しただけだし、それに」  お前が取られるんじゃないかって、心配しただけだ。  目を逸らしながらそう言う彼に桜間は「バカですね」と笑った。 「ずっと憧れて、そして追い駆けて来たっていうのに、今更別の人を好きになるわけないじゃないですか」 「でもなぁ、お前・・・」 「俺はずっと先生が好きですよ」  先生だけ。 「先生が大好きです」 「・・・ばか」  黒江はシャワーを床に手放し、桜間を抱きしめる。そして軽く口付け、 「俺はいつだってお前のことしか考えてねぇから」  周りなんか見てる暇がねぇくらい、 「お前も俺でいっぱいにしてやるよ」 「・・・はい」 「ん、ぁ、待って、せん、せぇ、」 「待たない」 「やっ、そこっ、だめっ、やぁあ!」  お互いの顔を見ながら身体を重ねる黒江と桜間。  今度は後ろを向けとは言われず「俺の顔が見たいんだろ?」と、意地悪な顔をしながら聞いてきたため、「知らないっ」と首を背けて答えたが、もうそんな余裕などどこにもない。 「ここが、気持ちいい、くせに」
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