音色に恋して2

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 黒江はワザと桜間の言葉に言葉を重ね黙らせる。 「俺も一緒じゃダメなんですか?」 「お前、前に聴かせてたら寝たじゃねぇか」  そう言うと、加嶋は苦い顔をしながら「そーんなこともありましたっけね」と呟いた。 「だから今日は帰れ」 「・・・・」  手を顔から離し、ジトリと加嶋を睨みつける。それに加嶋も気に食わなさそうな顔をしていたが。 「わぁかりました」  降参というように両手を上げた。 「今日のところは帰ります」 「竜先輩っ」  すみません、と謝る桜間に加嶋は笑いながら「なんでお前が謝んよ」と笑い、 「しっかり勉強しぃや」  手を振ってレッスン室から出て行った。  それを見届けた黒江はまた大きな溜息をつく。レッスン室に桜間の困惑したような雰囲気が漂っており、ソレと一緒に加嶋に対する申し訳なさも漂っていた。 (ほんっと加嶋のやろぉ、邪魔してくれんなっ)  黒江は舌打ちをしたいのを我慢しながら「祐介」と、加嶋が来る前に呼んだように彼の名前を呼ぶ。 「あっ、隣りの部屋で曲を聴くんですよね!すみません、ぼっとしちゃって」 「別に。つーか、曲はまた今度な」 「へ?」  パチパチと瞬きする桜間に黒江は近づき、頭を撫でる。 「今夜、俺の家に来いよ」 「・・・えっ」  少しの間を開けて、桜間はボッと顔を赤く染め上げる。それはすなわち、家で何をされるのか分かっているわけで。 (へぇ?)  黒江の機嫌が良くなる。 「なんか今夜用あんのかよ」  頭を撫でていた手を頬へと滑らせ、親指で撫でる。 「いえ、なにもっ、ない、です、けど・・・」  親指で撫でられているのがくすぐったいのか、目を細める桜間。その細めた目の中はあちこちに動いており、今にも逃げ出しそうな勢いだ。だが逃げさせるつもりはない。 「けど、なんだよ?」  少し前屈みになり耳元で聞く。それだけで彼はビクリと肩を揺らすのだから可愛いものだ。 「け、けど、えっと、えっと、」 「何もないなら、連れて帰るからな」  そう言い黒江はもう片方の頬にちゅっと口付ければ「ぅ、」と細めた目をぎゅっとつむる桜間。それに黒江はクラリと目眩に似た何かを感じ、だがここでこれ以上のことをする気はないのだと唇を噛み締め、小さく「早く準備しろ」と急かす。すると桜間は無言で頬を赤く染めたままコクンと頷き、急いでサックスを仕舞い始める。 (なんとか堪えろ俺っ)
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