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黒江はワザと桜間の言葉に言葉を重ね黙らせる。
「俺も一緒じゃダメなんですか?」
「お前、前に聴かせてたら寝たじゃねぇか」
そう言うと、加嶋は苦い顔をしながら「そーんなこともありましたっけね」と呟いた。
「だから今日は帰れ」
「・・・・」
手を顔から離し、ジトリと加嶋を睨みつける。それに加嶋も気に食わなさそうな顔をしていたが。
「わぁかりました」
降参というように両手を上げた。
「今日のところは帰ります」
「竜先輩っ」
すみません、と謝る桜間に加嶋は笑いながら「なんでお前が謝んよ」と笑い、
「しっかり勉強しぃや」
手を振ってレッスン室から出て行った。
それを見届けた黒江はまた大きな溜息をつく。レッスン室に桜間の困惑したような雰囲気が漂っており、ソレと一緒に加嶋に対する申し訳なさも漂っていた。
(ほんっと加嶋のやろぉ、邪魔してくれんなっ)
黒江は舌打ちをしたいのを我慢しながら「祐介」と、加嶋が来る前に呼んだように彼の名前を呼ぶ。
「あっ、隣りの部屋で曲を聴くんですよね!すみません、ぼっとしちゃって」
「別に。つーか、曲はまた今度な」
「へ?」
パチパチと瞬きする桜間に黒江は近づき、頭を撫でる。
「今夜、俺の家に来いよ」
「・・・えっ」
少しの間を開けて、桜間はボッと顔を赤く染め上げる。それはすなわち、家で何をされるのか分かっているわけで。
(へぇ?)
黒江の機嫌が良くなる。
「なんか今夜用あんのかよ」
頭を撫でていた手を頬へと滑らせ、親指で撫でる。
「いえ、なにもっ、ない、です、けど・・・」
親指で撫でられているのがくすぐったいのか、目を細める桜間。その細めた目の中はあちこちに動いており、今にも逃げ出しそうな勢いだ。だが逃げさせるつもりはない。
「けど、なんだよ?」
少し前屈みになり耳元で聞く。それだけで彼はビクリと肩を揺らすのだから可愛いものだ。
「け、けど、えっと、えっと、」
「何もないなら、連れて帰るからな」
そう言い黒江はもう片方の頬にちゅっと口付ければ「ぅ、」と細めた目をぎゅっとつむる桜間。それに黒江はクラリと目眩に似た何かを感じ、だがここでこれ以上のことをする気はないのだと唇を噛み締め、小さく「早く準備しろ」と急かす。すると桜間は無言で頬を赤く染めたままコクンと頷き、急いでサックスを仕舞い始める。
(なんとか堪えろ俺っ)
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