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ゴホゴホと咳をしながら聞くが加嶋は、落ち着けよ、と言いながらコップに水を足してくれる。それに桜間は、すみません、と言いつつも、すみませんとか言ってる場合じゃない!とやっと内心で冷静な自分が突っ込んでくれるが、加嶋はあくまで冷静に返してくる。
「まぁ何でか、って聞かれると、見てたら分かるから?」
「な、何も分かりません」
「門下の先生に好かれてていいじゃねぇか、後輩くん?」
指揮をピタリと止め、ラーメンを食べ始める加嶋に「そ、んなもん、ですかね」とぎこちなく返す。そして桜間もまたラーメンを食べ始めるのだが。
「でも、俺も負けるつもりはねぇし?」
「ふぇ?」
「いや、こっちの話し」
ニッコリと笑った彼の言葉の意味を理解できず、けれど何も問題がないとも思えず―――
「―――っていう話しをしたんです」
次のレッスンが終わり、サックスを置いて譜面台を畳みながら黒江にその時の話しをする。
日にちが経てば、なんだか加嶋の言っていたことは何でもなかったことのように思えて、笑いながら「竜先輩も黒江先生を超えたいと思っているんですね」と付け足せば、黒江は「どうしてそうなんだよ!」と、椅子から立ち上がり怒鳴った。
「え?」
「お前、遠回しに告られつつ、俺に対して宣戦布告してンだぞ?!」
「はい?」
告られた?
桜間は畳んだ譜面台をグランドピアノの上に置きながら「そんなことありませんよ」そう笑うが、黒江は大きく舌打ちをする。
自分は空気を読むのが得意な方ではないけれど、今の自分と黒江には温度差があるということは何となく理解でき、笑顔を消した。
「あの、せんせ、」
「加嶋に近寄んな」
「はぁ?!なんで?!」
「前にも言ったろうが!愛嬌振り撒くなって!それなのに、くそっ、加嶋の野郎っ」
確かに前に愛嬌を振り撒くなと言われた。そのことを思い出し、少し頬を赤くする桜間だが、照れている場合ではない。愛嬌を振り撒いたつもりもないし、加嶋が何か悪いことをしたわけでもない。それなのに、何なのだ一体。
「俺の先輩を悪く言わないでください!」
けれど黒江が加嶋のことを悪く思っていることは分かる。それに対していい思いをしなかった桜間は、真っ直ぐそう言い放ったのだが、その言葉を放った瞬間、ピリっと空気が変わった。
「あ?俺の先輩って何だよ」
「言葉のまんまですよ」
「ッ・・・」
「わっ!」
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