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「ああ、おいあんた。中まで入ってこられるのは困る」
ホールの真ん中まで進んだあたりで、声が聞こえた。直後に声の主と思われる男性が大階段を駆け下りてくる。
「城門に注意書きがあっただろう。城の中までは……」
その男性は私の姿を見た瞬間、言葉を詰まらせた。
歳は……20代前半と言ったところ。ほとんど私と同年代なようだ。
外見こそ人間と変わりはない。綺麗な金色の髪の毛と、同色の瞳が印象に残る。
だが、持つ雰囲気が決定的に違う。彼は魔族。見た目は同じでも、人間とは全く違う種族なのだ。
「……なるほど、お前が噂の勇者っていう奴か」
「……」
男性の表情に敵意が現れた。
見抜かれている。まあ、鎧を着たこの格好からして観光客といった様子ではないだろうし、勇者という存在を知っていたのならこうなることも当然だ。
「貴方が魔王ですか?」
私は自分の得物である双剣を構え、男性に質問した。
「いや、違う。残念だったな」
「……そうですか。ならすぐにそこをどいていただけるとありがたいです。無駄な争いはしたくないので」
目的は魔王だ。消耗を抑えるためにも、できるだけ戦いは避けたいのだが……
「悪いな、お前にとっては無駄な争いでも、俺にとってはアイツを守るための重要な戦いだ。通すわけにはいかない」
まあ、世の中そんなに甘くはない。
幸いにもここは広い場所だ。戦う分には……悪くない。
「一応こっちからも言っておくぞ。今すぐ引き返せ。そうすれば何もしない」
私は男をじっと見据える。引くつもりはない、という意志を込めて。
「……なんて言っても無駄か」
その時、男の見た目に変化が現れる。右の瞳が金から真紅へと変化し、赤と金のオッドアイになった。
続いて男の手元に黒い炎が上がり、その中から槍が現れる。
これが魔法……魔族が持つ、特別な力。目の当たりにするのは初めてだ。
男は槍を手にすると、軽く素振りをした。槍が振られるたび、黒い粒子が軌跡を描く。
「私はリーサ・レイヴ。どうか、お見知りおきを」
「律儀だな」
「戦う相手への最低限の礼儀です。貴方の名は?」
「あー……悪いが」
……次の瞬間、男は私の目の前に迫っていた。
「アイツを狙う"殺し屋"なんかに名乗るほど、俺の名は軽くない」
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