Chapter1 魔王の城

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目の前に大きな城がそびえ立っている。 辺りは一面の草原。吹き抜ける風が、青々とした草を波立てる。 そのど真ん中に突然現れる、古風の城。どうやらかなり古いもののようだが、所々改築の跡があり、まだ人が居ることを示している。 この城は通称魔王城。読んで字のごとく、魔王が住まう城である。 数年前、魔物と呼ばれる存在が現れた。異形の肉体を持ち、私たち人間に襲い掛かるモンスター達だ。 魔物を統べるのは魔族の王……すなわち魔王。 私はその魔王を討つべく、ここに来ている勇者なのである。 なのである……のだが。 「……なんだか気が抜けるなぁ」 目を引くのは城門にあるメッセージ。 『観光客の方へ。城の内部は公開しておりませんので、立ち入りはご遠慮ください』 ……祖国であるカリアを発ち、迫りくる魔物を幾度となく倒し、魔族の国にたどり着いてようやく最終決戦だというのにその直前にこの注意書きはあまりにも……あまりにも緊張感を削いでくる。 というか来るのか、観光客。 「ううん……集中しなきゃ」 こうして油断させるための作戦かもしれない。魔王だというのだから強大な力を持つのは間違いない、これから始まるのは間違いなく今までで最も厳しい戦いだろう。 その戦いを前にこんな調子でいるわけにはいかない。私が失敗すれば、人間の危機となるかもしれないのだから。 私は装備を整え、決意を胸に抱いて、その城門に手を掛けた。 大きな扉が軋む音をたてながらゆっくりと開く。扉の隙間から城の内部が明らかになっていく。 古さが残る外部に対して、内部はある程度整えられているようだ。 入ってすぐ目に入るのは立派なホール。正面に大階段があり、これは吹き抜けになっている二階に続いているようだ。 ……魔王の城というだけあってもっと禍々しいものを想像していたのだが……意外にもちゃんとした、ただの立派なお城である。
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