Chapter1 魔王の城

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「ああ、おいあんた。中まで入ってこられるのは困る」 ホールの真ん中まで進んだあたりで、声が聞こえた。直後に声の主と思われる男性が大階段を駆け下りてくる。 「城門に注意書きがあっただろう。城の中までは……」 その男性は私の姿を見た瞬間、言葉を詰まらせた。 歳は……20代前半と言ったところ。ほとんど私と同年代なようだ。 外見こそ人間と変わりはない。綺麗な金色の髪の毛と、同色の瞳が印象に残る。 だが、持つ雰囲気が決定的に違う。彼は魔族。見た目は同じでも、人間とは全く違う種族なのだ。 「……なるほど、お前が噂の勇者っていう奴か」 「……」 男性の表情に敵意が現れた。 見抜かれている。まあ、鎧を着たこの格好からして観光客といった様子ではないだろうし、勇者という存在を知っていたのならこうなることも当然だ。 「貴方が魔王ですか?」 私は自分の得物である双剣を構え、男性に質問した。 「いや、違う。残念だったな」 「……そうですか。ならすぐにそこをどいていただけるとありがたいです。無駄な争いはしたくないので」 目的は魔王だ。消耗を抑えるためにも、できるだけ戦いは避けたいのだが…… 「悪いな、お前にとっては無駄な争いでも、俺にとってはアイツを守るための重要な戦いだ。通すわけにはいかない」 まあ、世の中そんなに甘くはない。 幸いにもここは広い場所だ。戦う分には……悪くない。 「一応こっちからも言っておくぞ。今すぐ引き返せ。そうすれば何もしない」 私は男をじっと見据える。引くつもりはない、という意志を込めて。 「……なんて言っても無駄か」 その時、男の見た目に変化が現れる。右の瞳が金から真紅へと変化し、赤と金のオッドアイになった。 続いて男の手元に黒い炎が上がり、その中から槍が現れる。 これが魔法……魔族が持つ、特別な力。目の当たりにするのは初めてだ。 男は槍を手にすると、軽く素振りをした。槍が振られるたび、黒い粒子が軌跡を描く。 「私はリーサ・レイヴ。どうか、お見知りおきを」 「律儀だな」 「戦う相手への最低限の礼儀です。貴方の名は?」 「あー……悪いが」 ……次の瞬間、男は私の目の前に迫っていた。 「アイツを狙う"殺し屋"なんかに名乗るほど、俺の名は軽くない」
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