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「流石、ここまで一人で辿り着いたあたりそれなりの実力はあるらしい」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「ああ、実際褒めているつもりだ」
男は構えを解き、言葉をかけてくる。魔法があるとはいえ、あちらもこの距離は間合いではないのだろう。
「そちらも中々の腕をお持ちのようですね」
形式的にこちらも褒め言葉を返す。
この言葉は半ば社交辞令とはいえ、本心でもある。彼は今まで戦った何よりも手強い。
「これでも魔王の騎士をやらせてもらってるもんでね。アイツを守るためには……これくらい強くなきゃ務まらない」
魔王の騎士、初めて聞く言葉だ。
意味を推測するのは難しくない。口ぶりからして魔王を守るための戦士なのだろう。
恐らく魔王の前に倒すべき最大の障害。それに最初から遭遇したのは運がいいのか悪いのか。
……だが、ここで勝利を掴めば後がある程度楽になるということ。ああ、そうだ。むしろ都合がいい。
さて、それよりも今の状況だ。
二人ともが間合いを保っている状態。先に動くべきか否か。
ある程度力を抜いているとはいえ、警戒されていることに変わりはない。この距離を詰めようとしたところで間違いなく対処されるだろう。
だがそれは相手もわかっていることのはず。待っていても展開は進展しない。
重要なのは……相手の隙を相手よりも早く狙う事。
「……なあ、あんた」
相手が動いた。攻撃ではなく、会話として。
「なんでしょうか」
警戒を緩めることなく返答する。
相手はこの会話の中で、私に隙を作るための何かを仕掛けてくる。これは間違いない。
「もしかして、だが」
何を言ってくる? 何を言われても動揺しないよう、冷静に対処しなければ。
「……これだけ距離が開いてれば大丈夫、とか思ってないよな?」
「……!」
槍の先端がこちらに向けられた。
まずい、相手は……行動ではなく、攻撃を仕掛けてくるつもりだ!
「残念だな、そこも俺の間合いだよ」
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