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目を疑う出来事が起きた。
私に向かって向けられた男の槍が、急激に伸びてきたのだ。
「っ!?」
「こいつは伸縮自在の槍でね。これくらいの距離ならお安い御用だ」
予想できなかった攻撃に、一瞬動きが固まってしまう。
「隙あり、だ」
怯んだ隙をついて距離を詰められた。男は槍を元の長さに戻し、再び攻めてくる。
再び、こちらの攻撃がギリギリ届かない、近づきすぎないほどの距離。槍使いに有利な距離だ。
「くっ……」
「騙し打ちみたいな真似になって悪いが、こっちも必死なんでね」
そう言う男の声色は、言葉とは裏腹にまだまだ余裕を持っている。
しかし、私を本気で倒そうとしているのは確かだ。魔王を討ちに来た私に、強い敵対心を持っている。魔王とは、そこまで守る価値のある者なのだろうか。
だからといって、みすみすやられるつもりはない。
「はあっ!!」
「なっ!」
連撃の中に、一瞬だけ存在する隙。私はその隙を見逃さなかった。
右手の剣で槍を弾き、左手の剣を構えながら相手の懐に潜り込む。こうなればこっちのものだ。
槍は中距離に対応できる厄介な武器だが、逆に至近距離には弱い。小回りが利かないためである。
ここまで距離を詰めてやれば防御することも難しいはずだ。相手が距離を調節する前に、ここから手数を使って畳みかける。
「甘いな」
……だが、私の読みは外れていた。
「伸縮自在って言っただろう?」
男の手には、ナイフほどまで縮んだ槍が握られていたのだ。
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