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「そんなっ……!」
私の双剣での攻撃は、見事に塞がれてしまう。男は蹴りを繰り出し、私の双剣を弾き飛ばす。
次いで男は得物を失った私の脚を斬りつけ、動きを封じてきた。
ナイフと言えば、双剣よりも至近距離での戦闘が有利になる武器だ。距離を詰めたことが逆に仇となったということか。
「これで終わり……だな」
「……っ!」
私の喉元に槍が突きつけられる。
武器は手元にない。脚を怪我しているせいでまともに動くこともできない。魔石を使おうにも、この状況で怪しい動きをすれば即座に首を斬られるだろう。
なすすべ無し、か。
「何か言いたいことはあるか?」
私は男の質問には答えず、そっと目を閉じた。
死にたくはない。言いたいことだって、沢山ある。故郷のお父さんや友達に伝えたい言葉が。
だが、抵抗しようとも思わない。これ以上の抵抗は無駄だと分かっているからである。
私の心を支配しているのは、諦めだった。絶望的なこの状況で、私は完全に諦めてしまったのだ。
「……そうか」
"何も言わない"という返答をした私に、男が言葉を漏らした。
ああ、そういえば結局、彼の名前を聞いていない。今この場で質問すれば、ファーストネームくらいは教えてくれるだろうか。
そんなどうでもいいことを考えて、死への恐怖を紛らわす。
槍の先端は手振れにより私の首元に触れたり離れたりしている。これがもう少しで私の首に突き刺さるのだ。
……恐い、嫌だ。けれど、覚悟は出来ている。目を瞑った暗闇の中で、私はただただその時を待った。
「リーサ、と言ったか。さよならだ」
男が言った。ついに、最期の時だ。私は全身に強く力を入れて、痛みと苦しみに備える。
「そこまでだ、ナズ!」
……だが、その槍が私に突き刺されることはなかった。
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