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「分かった、早く、行け!! 携帯忘れるな」
「はい!」僕は上着も着ずに出ようとしていた。携帯も財布も上着の中だ。慌てて上着を持って、走り出した。
面倒見の良い上司だと思う。僕がいない間、僕のアポ済みの相手に自ら連絡し、出向いてフォローしてくれた。
後で、一番若い今年の新人に、狼狽している僕が事故に遭わないか、駅まで後ろを追いかけさせた、と聞いた。
ところが、僕があまりにも早く走ったので見失い「振り切られました」と息を切らせながら報告したら「鍛え直せ」と叱られたと言っていた。
病院までの記憶は無い。ただ、ものすごい勢いで病院に駆け込んだのは確かだ。
病院では有紀の横で医師が待っていた。
「残念ですが、もう・・・」
僕は有紀の横に駆け寄り、手を取った。有紀が僕の手を少し握り返した気がした。
「先生!」
先生が、さっと有紀を調べ首を振った。
その瞬間、僕は泣かなかったそうだ。
能面のように無表情だったと同席していた看護師さんが言っていた。激しく息を切らせていたのに、まるで息をしていないようだったと。
そのまま、す~っと部屋を出て廊下を歩き、手すりを乗り越え吹き抜けを飛び降りようとしていたのを、医師に指示され様子を見に来た看護師に後ろから止められた・・・らしい。(覚えて無い)
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