泥棒

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泥棒

有紀が無くなって1ヶ月ほどしたときに、マンションに泥棒が入った。 7階建ての3階に住んでいたのだけれど、柵と植木を伝って3階まで上がって来たらしかった。 それが4件隣の家だ。そこからベランダ伝いに4件連続、盗難に遭った。 家に帰り着いた時に丁度、警察が来て大騒ぎだった。 有紀は部屋の中にいたはずだ。僕は慌てて、警察官と一緒に部屋の中に入った。警察官が荒らされている状況を確認している間に有紀を探した。 有紀は寝室の隅で、うずくまって震えていた。 「有紀」 「俊ちゃん! 怖かった!! 知らない人がベランダのガラスを割って入ってきたの」 「大丈夫だったか?」 考えてみれば、泥棒からは有紀は見えないし、たとえ見えても触れられないので、何かあるわけは無いのだが。 「うん、大丈夫。それより生活費の8千円と婚約指輪と俊ちゃんの健康保険証と私の死亡診断書のコピーを盗まれた」 現金を置いてないから、金目の物と言えば指輪しかなかったのだろう。 警察官に盗まれた物は?と問われて、有紀に教えて貰った事をそのまま伝えた。警察官は、寝室に入った瞬間に、よく解りましたね、と感心した。 「泥棒はプロですか?」 「いや、素人ですね。実際にベランダのガラスを割る音で気づかれて通報されてますし、逃げるときに玄関から出たので防犯カメラに写ってるでしょう。多分逮捕は時間の問題です」 それを聞いていた有紀が「婚約指輪取り返して!」 と言った。 「逮捕は時間の問題だって」 「早く取り返して! 私の宝物だんだから!」 勢いに押され慌てて「解った!」と言ったが、どうすれば、いいかな。 「何分前だ? 泥棒が入ったのは」 「出て行ったのが20分ほど前」 「よし!」
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