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昨晩読んだ、入学案内のパンフレットにはこう書いてあった。
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本学――私立飛龍(ひりゅう)学園は創立から200年以上の歴史を誇り、社会に貢献する数多くの優秀な人材を輩出しています。
長らく男子校として有名だった本学でも、時代の流れに合わせ数年前より女子生徒の受け入れを開始し、さらなる飛躍が期待されています。
この緑深い土地にたたずむ、広大な学び舎で、のびのびと学園生活を楽しんでください。
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広大な学び舎、ってどの程度だろう。
調べてみると敷地面積は東京ドーム約3個分だという。
ま、そんな知識、今となっては何の役にもたたない。
4月某日。
私――平賀実紅(ひらが みく)はこの無駄に広い学園の中で絶賛迷子中だった。
ていうか、広すぎやしません?
現在時刻は9時。 確か新入生の集合は9時30分に教室へ。
……時間が無い。
入学式の日に遅刻なんて目立つ行為したら、ずっとネタにされる。 それは洒落にならない。
「いったん落ち着こう……」
早足で動き回っていた私は立ち止まり、昇降口で貰った学園の見取り図を開いた。
講義棟、グラウンド、体育館、畑、部活動棟などなど。 建物の名前が一気に情報として私の目を埋め尽くす。
その中からこの状況を打開する手段を見つけようと目を凝らす。
……。
「見取り図って、現在地把握してないと使えないじゃん……」
そう気づいてしまって、なんだか哀しくなった。
かろじてシンボルの時計台が北に見えるから、学内の南側にいるのだろう……と思う。
慌てて辺りを見回す。
林の中のようなこの場所は、人一人通らない。
せめて誰か居れば道を尋ねることができたのに……!
そう心の中で叫んでも人は通らない。 当たり前か。
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