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「明らかにひと悶着あったような男ふたりを閉店間際に受け入れてくださったんですから、大満足ですよ」
「そりゃまあ、シェルターとしてはたすかりましたがね。しかしこんなとこで大満足なんておっしゃられると――」亀岡は苦々しげに下垂させていた唇の端をふいに吊りあげた。「そうだ、これからうちの店へご案内しましょう」
「おたくの店と言いますと……」
「ええ、本部です。『クラブ乙竜』です!」
「しかしもうこんな深い時間ですし、何よりもずいぶん遠いところにあるようですから」
「そこがホスピタリティというやつですよ。とりわけVIPがお相手となれば何なりと融通きかせますんで」亀岡は椅子をはじいて立ちあがり、店主に目をやる。「じゃ、ここチェックで」
「あの、ミックスナッツは?」店主が即座に返す。
「あ? ……ああ、ああ、そっか」亀岡は顔のまえで手をそよがせる。「もういいよ、んーなもん」
遅いんだよだいたい、とつぶやきながら亀岡がレジに進む。
ドアが勢いよく開き、若い男が息をはずませてはいってくる。
「すいません、遅くなっちゃって。いやもうこの時間なんで薬局が開いてなくて、二丁目の果てまでダッシュしてきましたよ」若者は袋の中を確認しながら店主にさし出す。「はい、じゃあ絆創膏と消毒液と包帯と湿布。あ、それとナッツをいろいろ」
店主はポケットからふたつ折りにした札の束を出す。
「いや、いい、いい! いつも世話んなってんだから、こんぐらいはやらせてくださいよ。ね!」若い男は手にした袋を店主へ押しつけると、ふたりの客に愛想よく笑顔を向けてから店を出て行った。
「ささ、行きましょう」亀岡はためらいなく島太郎をうながす。
「いやあ、さすがにそれは悪いですよ」
「大丈夫ですって。うちのことならご心配なく! なにしろホスピタリティの精神ってやつが――」
「いえ、そうじゃなくって」
さえぎられた亀岡はうっすらと顔をしかめる。
「そうだマスター、イチゲンでなんなんですが、ボトルをいれさせてください」ねぇ、そうしましょう、と島太郎が亀岡を見る。「ここに立ち寄ったときはこのボトルで気がねなく呑むとしませんか」
「ははぁん、ふたりの友情の証ってわけですな。ま、金輪際立ち寄ることもないだろうけど、そういったお遊びは大好きだ。よござんす。じゃあ、そいつの支払いはオレが」
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