しがみついていた物がゴミ屑だと知った日

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「…」  動揺は飲み込んだ。  名の上がった隊員は犬族の隊員で、まだ若い元気な隊員だった。いつも人懐っこく声をかけてきて、今回の事件でも率先して捜索をしていた。そいつが、犯人だった。 「お金が必要だったようです。若い兵士の給料では、間に合わなかったんだと」 「どうして…」 「…軍の上層にいる兄が出世するために、お金が必要だったらしいです」 「っ!」  痛いくらいに歯を食いしばり、悔しさと苛立ちを飲み込んだ。  バカな理由だ、そんなもの。軍の上層なんて、そんなにいい場所ではない。そんなものの為に、未来のあったあいつは道を踏み外したのか。人を…仲間を殺したのか…。 「バカな事をしたものですね」 「!」  静かな声に顔を上げる。睨み殺す勢いで見たその顔は、とても静かに、深い憂いを覗かせている。コイツのことだから、嘲笑を浮かべているのだと思った。あの薄い笑みを浮かべているのだと思った。 「どれほど窮しても、踏み外してはいけない物があるというのに。自分ばかりか、これでは家族まで巻き込んでしまった。それをどうして、早く気づけなかったのでしょう」 「……」  言葉がない。同時に、沈んだ。     
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