しがみついていた物がゴミ屑だと知った日

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 黙って聞いていたランセルが、ポンポンと肩を叩く。見ればなぜかコイツも辛そうな顔をする。黙って酒を流し込んで、重く息を吐いている。 「私は、貴方は十分に努力したし、抗ったと思います。辛い思いをしてきて、それでも諦めずにいる姿は十分に強く美しいと思っています」 「それでも逃げた」 「逃げたんじゃなくて、見限ったのですよ。貴方一人がどれほど頑張っても、大きすぎるものは簡単に倒れませんから」 「情けない…」 「頑張りすぎていたのですよ。もう少し適当だっていいのです。自分の事を守ってもいいじゃないですか。誰が責められます」  心地よい言葉は、都合良く俺を慰める。  五杯目を舐めるように飲みながら、ぼんやりと今後を考えた。軍に戻る事は、あまり考えていない。だが、違う生き方も見えていない。戻る場所もない。 「どうやって、生きていけばいい」 「そうですね…。あっ! では、私の国に来てみるのはどうでしょう? 違う景色が見えてくるかもしれませんよ」 「竜の国にか?」  ふと考えて、それも悪くないように思えてくるのが不思議だ。  そうだな、旅などしてみればいいだろう。幸い身を守る術も、野宿の心得もある。一人であれこれと考えてしまうよりは、旅にでも出て知らない国を巡るのもいい。  そしてその最初が隣の竜の国でもいいかもしれない。     
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