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現状に不満はあるが、出ていってどこに行くのかと問われるとなんとも言いがたい。気持ちの悪い状態だ。
「グラース様」
「ん?」
「もしも迷惑じゃなければ…」
「あぁ?」
「…迷惑っすよね」
「当然だ」
迷惑は迷惑なんだ。それは間違いがない。だが、大暴れしてまで拒む相手かと言われると、その限りではない。
これでも少しは信頼した相手だ。酒を飲んでいたにしても、誰にも言わない事を吐露するくらいには。
「あの、ランセル様の事をあまり嫌わないで欲しいっす」
上目遣いに俺を見るハリスは、遠慮がちにそんな事を言う。俺は首を傾げ、ハリスを促した。
「ランセル様のあんな締まりのない気持ち悪い顔、初めて見るっす。でもなんか…安心もするっす。ここにいるとランセル様、いっつも不機嫌で怖いっすよ」
「怖い?」
あの締まりの無い男が怖いというのは、いったい何故だ。
「…竜人族の出生率が悪いのは、知ってるっすよね?」
「あぁ」
有名な話だ。竜人族、魔人族、天人族は特に出生率が悪く絶滅を危惧されている。それでもある一定数はいる。何よりこいつらは寿命が獣人や人族よりも長い。何より絶対的に強い種族だ。簡単に死にはしない。
だがハリスはとても言いづらそうに、そして暗い顔をしている。
「緑竜の王族の王子は、ランセル様だけっす」
「そうなのか?」
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