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隔てられた世界
この生活にも大分慣れた。
数ヶ月も経てば俺は緑竜軍の鬼教官で定着し、今では気心の知れた奴も多くなった。こうして接してみれば昔とさほど変わらない。いや、獣人族の序列が無いだけこっちのが楽なんだろう。種族自体が違う。
ランセルには、時々黒塗りの馬車で客が来ている。そういう時はハリスがきて、俺を部屋に押し込んだ。おそらく会わせたくない、もしくは俺の存在が知れるとまずい相手なんだろう。予想はついたから、詮索はしなかった。
そんなある日だ、ランセルが定例の国家会議で緑竜の王都へと向かう事になったのは。
「やっぱり、行かなければいけませんかね?」
「当然だ。元々決まっている会議に軍の責任者が出席しないなんてことがあるか」
朝から重い溜息をついてひたすら嫌な顔をしているコイツを、俺は何度目かの溜息で送り出す。
「いいですか、グラースさん。絶対に何があっても待っていて下さいね」
「分かっている」
「明日には帰ってきますから、屋敷から出ないで下さいね」
「分かっている」
「浮気なんて…」
「煩いぞ、ランセル」
いい加減にしろ、バカが。
俺はガッシとランセルの頭を手で押さえ込むと、乱暴に髪をなで回した。
「ちょっ!」
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