しがみついていた物がゴミ屑だと知った日

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しがみついていた物がゴミ屑だと知った日

 目が覚めると、妙にすっきりとしていた。  汗だくのはずの俺の体はシャワーを浴びたようにサッパリとしていたし、服も綺麗に着せられている。寝具も汚れ一つない。カーテンは開けられ、僅かに外の穏やかな風を運んでくる。  体を起こして、そこに痛みや不具合がないのも驚く。数日が経過した様子もない。  いつもは頭が重く痛み、体中が軋むように痛むのに。  あいつが早めに吸い出したからか…。  サイドボードを見ると、なんとも洒落た水差しが置いてある。底に輪切りにしたレモンが沈んでいる。それを取って流し込めば、爽やかな酸味と僅かな甘みがあり、冷たい。置かれて時間が経っていない証拠だ。  律儀な奴だ。そんなに軽くない、気絶して力の完全に抜けた俺を律儀に清め、着替えさせて、寝具まで取り替えて。朝には窓を開けて風を通し、こんな物まで置いていったのか。  自然と笑みが浮かんだ。どんな顔でそれらをしていたのか、見てみたかった。苦労していれば万々歳、嬉々としていたらキモいから殴りたい。  起き上がり、シャワーを軽く浴びて着替えた。きっちりと着込む気にはなれなくて、黒のトラウザーズにシャツを着込み、タイも上着も着ずに部屋を出た。
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