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その④
次に目が覚めたのはベッドの上。首の輪っかはすでに取り外され左右を確かめる事ができた。右側にはカーテンが引かれていて左側は出入り口だった。時刻が気になるも時計はカバンの中。静かで暗く、寒かった。「入院承諾書」にサインしたにもかかわらず自分が何処の何病院にいるのかも見当がつかなかった。
「寝るしかないな」と思っていたところ頭上から声がした。その姿は暗闇ではっきりとは見えない。若い声の男が「ご苦労さまでした。いろいろ検査はしましたが、緊急性はありません。こちらは緊急病院ですので転院先を探しましょう」とサッサと言って出て行った。
腫れた頭、動かない手足、納まらないめまいと耳鳴り、たくさんの質問、代行者のいない自分。事故の状況は覚えていたので誰が悪いと言って自分しか見当たらない。けれども行き場のない怒り、憎しみ、悲しみ、情けなさがあった。
その根源は渇きではなくて空腹。朝からソワソワして菓子パン1個しか食べていなかった。打たれていた点滴が外されていた。もう、必要がないと判断されたのだろう。でも、「料金の内でしょ?少しは腹の足しになったかも?」「モッタイナイな」とも思い、そして「今、転院?」心臓がバクバクして声が漏れた。
「なんでよ!!」と同時に「しまった!!」大声を出してしまったと瞬時に反省をしても部屋は静まり返ったままだった。5分か10分か、そのくらいして、「大丈夫?」と右隣りのカーテン越しから声がした。おずおずとした囁き声にひっちゃかめっちゃか混乱した心は慰められ、寝た。
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