その①

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その⑥ また一眠りしていると分かりやすいブランドのパリッとした白衣の襟を立てた先生が登場した。診断は左足の第五中足骨折と全身打撲との事だった。医師はその説明をするわずかな間に手指の消毒スプレーを3~4回してオーバーテーブルをビシャビシャにした。無表情なまま私から視線を外すことがなかった。まだまだ頭がはっきりせず、何の質問も思いつかないまま「どうも」とだけ言ったので医者は行ってしまった。 看護師が車椅子をベッドに運んでくれて、「入院期間はレントゲンを撮りながらの様子見です」と言った。「近松さん、お仕事は何をされていますか?」と聞いた。 私はこの質問が嫌いだ。3万円の家賃やら、その他もろもろの生きて行くのに必要なお金は株式投資で稼いでいる。だから「投資家?」かもしれない。でも1か月に2桁を稼ぐか稼げないかの低所得者。で、たぶん、世間様が想像するような贅沢三昧、楽して自由ではない。粉飾臭がプンプンしている日本国株式会社の一部の企業にわずかな資金を注ぎ込んで、細々と生活しているのが実態。人手不足のはずなのに何処に行っても断られるバイト、いっその事、お金を全て崩してパッと遊んで使って生活保護をもらった方(そんなに甘くはないと思うけど)が生活は楽だろうと思う。 なのに何だかそれをしないのは、株式セミナーで聞いた「地方のどんな小さな本屋にも四季報は置いてあります。それは密かに株取引を行っている人の数を示します。だから株は安心です」の、「だから」になんの根拠も見いだせないのにすがっているからだし、私、見渡す限りの能天気。まあ、この手の質問には「自宅でパソコン関係のお仕事です」と言っておけば間違いなし。そうそうパソコンマニアにも出会わないし、そもそもそんなに興味も持たれない。
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