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「何を言ってるんだ。君にとやかく言われる筋合いはない。兎に角、珈琲だけでも早くしてくれ。こっちは朝から何も食べていないんだ。」
その男ーーー
高嶺敬二は苛立った様子で言った。
程なくして、店の主が高嶺の前にカップを置く。しかし、それは高嶺が欲している物ではなかった。
高嶺の前に置かれたのは注文した珈琲カップではなく深くて丸みを帯びた真っ白なスープカップだった。
「ーーーどういうつもりだ?」
腹立たしさを露骨に顔に出しながら言う高嶺の問いかけに、主がゆっくり答えた。
「どうこもこうも野菜スープですよ。コトコトコトコトじっくり煮込んで作ってあります。」
「それくらい見ればわかる。俺が聞いているのは何故、俺が頼んでいないものを持ってきたんだ、と言う事だ。」
声を荒げながら言う高嶺に店の主は飄々として答える。
「お客さん、ご存じないですか?うちは注文が出来ない喫茶店なんですよ。」
と、言うと店の主はどうぞと右手を差し出し今出したスープを飲むように促した。
野菜スープから湯気がたち、ほのかな薫りが高嶺の空っぽの胃袋を刺激した。
高嶺はゆっくりカップに口をつけた。
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