急ぐサラリーマン 高嶺 敬ニの場合

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店の外に出ると高嶺は空を見上げた。そしてーーー やはり、自分にはゆっくりしている時間はないのだ と、思った。 確かに野菜スープの様に、急がずじっくり煮込めば良いものが作れるだろう。素材の持つ最大限の旨味を引き出せるだろう。 しかし、自分はまだ途中なのだ。ぐつぐつ鍋で煮込まれている最中なのだ。 煮込まれて、煮込まれてじぶんの良さを出して行くだけなんだ。のんびりなんかしていられない。やがて旨味を出し尽くした野菜スープに仕上がるまで自分はもがくんだ。 目一杯、もがくんだ。いつか、その日のために。 高嶺は背筋をしゃんと伸ばすと真っ直ぐ前を見据え歩き出した。 その目はどこか、確実な未来を見ているかのようだった。 高嶺 敬二 野菜スープ 完食
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