おに、おか、おと

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 優奈は逆らう気にならなかった。自室に戻り、DVDをパソコンから取り出し、それを居間に持って行く。  優奈が移動している間に、母は落ち着きを取り戻していた。ソファに座っている彼女に、「はい」と言ってDVDを手渡す。 「今、思い出したんだけどね、優奈が小さい時、近所に三四歳年の離れた男の子が住んでたのよ。その子に優奈、すごく懐いてたのよ。お兄ちゃんお兄ちゃんって」  そうだっけ? と優奈は返した。自分には覚えがなかった。 「だから、そういうことだと思うわ」  母がにこっと笑った。作り笑いだとわかる。口の端に浮いた皺が震えていた。 「話は終わり。解決」  一方的に話を終わらせ、母は前のめりになってテレビを見た。だが放送されているのは、カレーのCMだった。
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