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レジカウンターに戻ってきた壁谷に聞くと、彼はウンザリしたようにため息を吐いた。
「ブラックリスト入りしている客なんだ。何回か店のトイレで吐かれて大変だった。トイレが詰まって業者を呼んだんだ」
「ああ、過食嘔吐ってやつ? 汚ねえなあ。わざわざこの店のトイレ使うなんて、営業妨害じゃん。どうせなら公園のトイレで――って、それも嫌だな。俺、公園のトイレよく使うんだよね」
客の男が、親し気に壁谷に喋りかけている。彼はここの常連らしい。
「それにしても――珍しいじゃん。あんたがまともに怒るなんて」
彼もさっきの壁谷の態度に驚いている。
「嫌いなんです。食べ物を粗末にする人は」
壁谷は苦々しそうに眉を寄せたが、すぐその表情を隠すように俯いた。
「あんなに細いのに、声はめっちゃ大きかったですね」
誰にともなく優奈が雑感を述べると、「吐くために腹筋だけは鍛えてるのかもな」と、ニッカポッカの男が辛辣な嫌味を吐いて弁当の棚に歩いて行った。
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