おに、おか、おと

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 箱の中に入っているのは、幼いころの自分が録画された8ミリビデオのテープと、それをDVDに変換したものだ。二週間前、母が業者に頼んだのだ。十年以上放置していたテープに黴が付着していたからだ。黴を綺麗に取り除くのは、素人には難しいらしい。 「一緒に見ない?」 「なんか一緒に見るのって照れるんだよね。自分の部屋で見るよ」  幼少期の自分になんて、それほど興味はない。でも暇つぶしにはなるだろう。  昼食を食べたあと、優奈はDVDを持って自室に向かった。勉強机の上には今年大学の入学祝いに買ってもらったノートパソコンが載っている。蓋を開けて起動し、内蔵しているDVDプレーヤーにDVDを挿入する。と、すぐに、チャプター画面が映し出される。数本分のビデオテープがこの一枚にぎゅっと詰め込まれているのだ。一年ごとのサムネイルは、すべて自分の顔のアップだ。驚いていないのにちょっと驚いた感じの目玉で、自分だとすぐわかる。小鼻のすぐ右横に米粒大のほくろがある。  とりあえず一つ目の二〇〇二年夏――つまり優奈が四歳の頃――のサムネイルをクリックして開く。     
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