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母は食器洗いを済ませ、ソファに座ってテレビを見ていた。ドラマの再放送だ。最近見ない俳優が刑事役を演じている。
「お母さん、ちょっと聞きたいんだけど」
母はテレビにくぎ付けになったまま、タッパーに詰まったピスタチオを殻から器用に外している。
「実は私にお兄ちゃんがいるってことはないよね?」
優奈は軽い気持ちで尋ねた。なに言ってんのよ、と一笑に付されて終わりだと思った。
母の手が止まった。殻付きのピスタチオを持ったまま、優奈の顔を困惑したような目で見た。
「どうしたの、急に」
「え、だから、私にお兄ちゃんがいたりして――なんて」
「なんでそんなこと聞いてくるの?」
問い質すような母の口調に戸惑った。
「DVD見てたら、私が『おに、おに』って連呼してたから、生き別れの兄でも――」
変な空気になってしまい、優奈はちょっと焦った。
「そんなわけないよね」
おどけて言ってみたが、母は笑わなかった。
「そうよ。変な事言わないでよ」
母がピスタチオを口に入れると、ガリっと痛そうな音がした。殻がついたまま噛んだのだ。
優奈は、あ、と思った。母は今、かなり動揺していると感じた。
口を押さえながら、母が呟いた。
「DVD持ってきなさい」
「え?」
「早く!」
ソファから立ち上がり、鬼気迫る表情で優奈の部屋を指さした。
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