おに、おか、おと

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おに、おか、おと

 ドアの向こうに骸骨が立っている。  比喩だけど、比喩じゃない。そんな感じの、本当に骨と皮しかない女性が店のガラスドアをゆっくりと開けた。風とともに、散った桜の花びらが数枚、店内に飛び込んでくる。  彼女の唯一膨らみのある腹に向かって優奈ゆなは「いらっしゃいませ」と声をかけた。自分の声がちょっと震えたような気がする。  ゆったりとした足取りで彼女がこちらに向かって歩いてくる。一歩ごとに体は不安定に揺らぎ、滑らかな床に靴の底を擦りつけ、足音を鳴らす。履いているスニーカーが抜け落ちそうなほど細い足首は、いまにもポキリと折れてしまいそうだ。こんな二次元みたいな人間、生まれて初めて見たかも――と思ったけど、そうじゃないかもしれない。本当に初めて? この、ほんのりとした懐しさは、既視感というやつかもしれない。もしかしたらどこかで目撃したのかもしれない。ここまでガリガリに痩せた人間を。     
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