卑怯な果実

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   *  指定されたカフェはお洒落なオープンテラスで、洋風の白い壁が木漏れ日の中で光っていた。  時間より早く来たのにも関わらず、水森さんは既に到着していた。パラソルの付いたモダンな丸テーブルと椅子が、彼女によく似合う。欧米の片隅の風景みたいで、そのまま絵になりそうだなと思った。  彼女は私に気付くと、小さく手を振った。初めて会った日のように、彼女は優しい笑顔をしていた。 「ビデオ、ありました」  オレンジジュースにアイスクリームを食べながら談笑したあと、私はさっそく本題を切り出した。  テーブルの上に、持ってきていたビデオテープを置く。水森さんは顔を上げ、少し緊張した面持ちでこちらを見つめた。 「祖母は、このビデオを見ていないって言っていました。再生するビデオデッキが無かったから。それに元から興味も無かったみたいです」  そして私はテープを手に持ち、続けた。 「私の家にはビデオデッキがあったので、再生してみました。でも、できませんでした。テープにカビが生えてて……。……あの湿気の多い祖母の家で、棚に入れっ放しで十年以上経っていたら、当然ですよね」  残念そうに、そう言った。  水森さんは一瞬、その大きな瞳を見開いた。そしてゆっくりと細めると、そう、と小さく呟いた。  彼女は静かに語り出す。  
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