卑怯な果実

12/15
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
   オープンテラスに、さらりとした風が吹く。  水森さんの話は、ほとんどが嘘だった。私はどことなく虚しい気持ちになり、ビデオテープを再度手に取った。  このビデオテープは確かにカビが生えており、あの日見ることはできなかった。  だから私は、業者にテープの清掃を依頼した。インターネットで検索するまで知らなかったが、ビデオテープが他の規格に取って変わった今の時代、そういった専門業者は多いらしかった。自分でもうまいことカビを取ることはできるらしいが、プロに頼む方が失敗も無いだろうし、特に高い値段でもなかったため依頼し、テープは無事修復された。  祖父の最期のメッセージを、どうしても祖母に見せたかったのだ。  でも私の想いは、そして祖母の想いは、裏切られた。  動画の内容は、祖父の独白だった。  会社かどこかの一室で、祖父はカメラの前に座り向き合っていた。その頬はこけていた。ガンで亡くなったと聞いたので、もう末期だったのかもしれない。  祖父はカメラを前に、話し始めた。  自分には昔、愛人がいたこと。  愛人との間に子供がいたこと。  それらを説明し、不倫をしていたことをしきりに謝っていた。  死を直前にして、自分がただただすっきりするためだけの、一方的な謝罪だった。  
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!