卑怯な果実

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   ビデオの中で、祖父はその子供の名前も口にしていた。水森真希は祖父の子だ。彼女が今口にした話はおそらく全てが嘘で、祖父の話はおそらく母親から又聞きしたものを混合したものだろう。 〝奥様、いい人ね〟 〝びっくりしちゃった〟  きっと、水森さんは自分の母親に教えられてきたのだ。  自分の父親が選んだ正妻は、ひどい人間だったと。  私たちの父親を取り上げた人間は、あのビデオを渡したのにも関わらずそれを無視して遺産を独り占めした、汚く、醜く、鬼のような女だと言いくるめられてきたのだろう。  本当は、相続の権利が無いにも関わらず祖父の葬式の席に相続の話を持ちかけてくる、自分の母の方が恐ろしい人間だということも知らずに。ビデオテープの最後に、わざと自分の存在をアピールするように、さりげなく鏡ごしに自分の姿を映していた事実も知らずに、水森さんは育ったのだろう。  身勝手な人たちが身勝手な行動をして、関係の無い人に必要の無い悲しみを作り出した。  私はただただ祖母を思い、もう一度息を吐いた。  なんだか、とても疲れていた。私は最後のアイスクリームの一口を食べ、そこで手を止めた。  アイスクリームに添えられた、小さな桃が目に入る。  ……水森さん自体は、おそらく悪い人間ではない。彼女はきっと、正妻である私の祖母を一目見てみたかっただけなのだ。祖母は本当にビデオを見たのか、自分たちの存在を知っていたのか、知りたかっただけなのだ。私はビデオを見られなかったと嘘を付いたが、もし水森さんがそれでも自分の素性を明かし、祖母を罵るようなことがあれば戦う気でいた。だが、そんな気配すら無かった。  だけれど、私はその桃を残し、カフェを出た。  
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