35人が本棚に入れています
本棚に追加
「……おばあちゃん、いないの?」
私は声を掛けながら、ギシギシと唸る廊下を歩いた。大方庭いじりで外に出ているのだろう。玄関を覗くと、昔ながらのガラス引き戸の向こうに、ぼんやりと人が立っているのが見える。
戸を開けると、そこには白いツバ付きの帽子を被った女性が立っていた。
「あら、こんにちは。お孫さんかしら」
彼女は透き通った声でそう言った。
白いサマードレスに小さなショルダーバッグ、きめ細かく日に焼けていない肌。髪だけが一度も染めたことのないような艶のある漆黒で、その美しい対比に一瞬圧倒された。
だけれど、若いわけではない。年齢は母と同じくらいだろう。ただ、実際何歳であろうとも「あら、見えないわ」と言われそうな、そんな透明感を持っている。
「水森さん、いらっしゃい。そろそろ来るかと思ってたのよ」
不意に背後に祖母が現れた。やはり外にいたらしく、上下ツナギを着たままだ。祖母は取り急ぎ軍手を外し、それを戸棚に置いた。
祖母は終始笑顔だった。
「初めまして、水森友紀です。遅くなってしまってすみません。道に迷ってしまって」
彼女はそう言いながら、祖母に促されるままにお邪魔します、と言って玄関を上がった。私は見知らぬ客人に軽く会釈し、退散しようと部屋に引き返す。彼女と目が合った一瞬、ふわりと甘い香りがした。
桃だ。
彼女の手には、レースの白い日傘と重々しい大きな紙袋が掲げられている。
先程スイカを食べたばかりだが、私は唾を飲み込みつつ奥の間に引っ込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!