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水森さんは、その見た目や所作から感じる通り、感じのいい方だった。
大人と喋る機会が少なく辿々しい私に配慮してか、自分から率先して祖父の話をしてくれた。向こうが客人だというのに、会話を途切れさせないようにしてくれる対応が、立派な大人の女性を思わせた。
「……あの。おじいちゃん、お亡くなりになるとき、何か残されていなかったかしら」
しばらく話し込んだあとで、唐突にそう聞かれた。
私は何のことか分からず、聞き返す。
「……何か、とは?」
「あの……手紙とか、映像のようなものとか……」
急に歯切れが悪くなったその言葉を不思議に思いつつ、取り急ぎ記憶を巡らせる。と言っても、心当たりなどまるで無い。
水森さんは慌てて手を振った。
「……知らないわよね。ごめんなさい。……あの、もし何か分かったら、教えてほしいの。いいかしら? 連絡先、ここに書くから」
水森さんは持っていたメモ帳に電話番号を書くと、私に差し出した。そして同時に、気を悪くされたら悪いからおばあちゃんには内緒でね、と言われた。
何故それで祖母が気を悪くするのかが分からないが、他所の女に何やら散策されるのは気分が悪いのかもしれない。もう祖父は亡くなっているとはいえ、祖母は妻だ。
もし祖母に不都合な成り行きになりそうなら連絡をしなければいいだけなので、とりあえず私はその連絡先を受け取った。
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