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それから祖母が仏間にやってきて、私は入れ替わりに部屋を出た。
祖母とすれ違うとき、小声で、置いておいたからね、と言われた。私の分の桃のことだろう。戸を閉めると、祖母と水森さんは襖の向こうで、何やら楽しげに昔話を始めたようだった。
私は仏間を出たあと、元いた部屋には戻らず、桃も読みかけの漫画も放り出したまま祖父の部屋へと向かった。
大きな日本家屋の一番奥、祖父の部屋の襖をそっと開ける。主人が居なくなった部屋は大した家具や荷物は無く、長い間閉じ込められ停滞した空気だけ流れていた。置き捨てられたような桐ダンス、押入れ、小物入れなど、あらゆる引き出しを私は開け始めた。
水森さんの話を聞いて、俄然興味が出てきたのだ。
亡くなった祖父が残した何か。水森さんがそう口にしたということは、本当に何かを残したであろう心当たりがあるのかもしれない。なんとミステリアスなことか。その先にあるのはロマンスか、ラブストーリーか。平凡で退屈な夏休みに、降って湧いたミステリーだ。
カビ臭い匂いと対峙しながら一時間あまり、私はそれらしきものを探した。
とはいえ、そこまで期待していたわけではない。発見されるものといえば服や日用品というありきたりなものばかりで、しばらくすると飽きてきた。祖母に直接聞いた方が早いだろう。水森さんから聞かれたということさえ黙っておけばいい。
そんなことを考えていたとき、部屋の隅に置かれた小さな収納家具の奥深く、隠されてるように置かれた風呂敷包みを発見した。
本当にあった。ビデオテープだ。
このご時世久々に見る、懐かしい形状。ラベルには祖母の名前、『松下キク様』と手書きで書かれている。
私はテープを持ち、興奮を押し殺しながら祖母の元に走った。水森さんは既におらず、タッチの差で帰ってしまったようだ。
「おばあちゃん、これ何?」
何食わぬ顔で聞いてみる。お茶やお菓子を片付けていた祖母は、驚いたように目を丸くした。
「あんた、それどこで見つけてきたのよ。それおじいちゃんの映像よ」
「映像って? 旅行とか?」
ワクワクしながら聞いた。
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