卑怯な果実

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   その日、私はこっそりとビデオテープを拝借し、家に持ち帰った。祖母は全く興味が無さそうだったから、おそらくテープが無くなっていることに気付かないだろう。  食べきれないから、と祖母に持たされた桃を母に預けると、私はそのまま自室に戻らず、玄関へと戻った。 「お母さん、ビデオデッキってまだ物置にあるよね?」  スニーカーのつま先を鳴らしながら聞く。母は嬉しそうにビニール袋の中の桃を見つめつつ、答えた。 「それなら居間にあるじゃない」 「ブルーレイじゃなくて、ビデオのレコーダー。昔、あったでしょ」 「んん……たぶん物置だけど、あんたあそこ触る気?」  私はそれだけ確認すると、庭に向かった。処理しきれていない雑草がちらほら生える庭の片隅に、スチール製の大きな物置がある。その扉をガラリと開けた。  そこには、ダンボールや工具などが所狭しと置かれていた。今まで狭い空間に篭っていた、むっとした空気が溢れ出てきて、一瞬息が詰まる。私は軽く息を止めながら、ひとつひとつダンボールを外に取り出した。  気付くと、いつの間にかつっかけを履いた母が後ろから追ってきていた。 「この山の中からビデオデッキ探す気なの? 大変よ、私もここ整理するの諦めてるんだから」 「見たいビデオがあるの。放っておいて」  その日から、ビデオデッキの捜索が始まった。  
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