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そんなジャンの西部に「エノル」という村がある。坊主頭のアカは、畑仕事が一段落すると、首にかけていたタオルで顔から頭にかけて汗を一気にぬぐった。ようやく暖かくなり、種をまくこの時期がアカは大好きだった。5か月後の収穫を思い描くと、胸が躍る。大きな身体をしているため、一見、豪快に見られるアカだが、心根はやさしい。ひと粒ひと粒、腰を曲げて丁寧に種をまく様は、大男らしからぬ仕事ぶりだった。 畦道を走る一台の白いトラックが停車した。運転席の窓が開く。 「よっ!どんな調子?」 幼馴染のシロだった。女性ながら性格は男のようにサッパリとしていて、髪は茶色いベリーショート。ドングリのような丸く見開いた目が気の強さを宣言している。アカにとって、ズバズバとモノを言うわかりやすいシロは、付き合いやすい人間のひとりだった。 「今、種まきが落ち着いたところだ」 そうアカが答えると、シロは親指で助手席を指差した。 「気分転換に軽くぶらぶらしない?」 「しかたないな」 アカが身体を折りたたむようにして助手席に乗り込んだのを確認すると、シロは勢いよくアクセルを踏んだ。アカの身体も座席のシートに押し付けられるほどの圧力だ。胃が押されるようだが、そんなシロの運転にも幾分かは慣れていた。
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