プロローグ2

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ただ、アダードから東に300キロメートルほど離れた首都・モエルは、いくらかは状況がましだった。電気や水道・ガスといったライフラインは普及していたし、貿易により諸外国、主に西の国「ロマンチア」から食べ物も入ってきていた。 そのため、アダードで育った子どもたちは、13歳になると首都・モエルに向かい、そこで独り立ちをして親や兄弟、祖父母たちに食べ物などを仕送りするようになっていた。 アダードで暮らすミニックは今年70歳。妻や子どもは病気で死に、今はひとりで暮らしている。高齢のため、年々、暑さが身体にこたえる。風通しの良い素材で造られた住居に身をひそめ、今年も暑さをしのいでいた。 そんな「死のディッセンバー」でも、毎年、ささやかな楽しみがあった。それは孫娘・メタからの贈り物である。13歳から首都・モエルで暮らすようになったメタは、現在30歳。結婚もし、子どももいる。 メタは毎年必ずミニックに食べ物を送っていた。その食べ物は、決して安くはないことをミニックは知っている。貿易により利益を上げようとするロマンチアは、とても高い金額で取引をしているそうだ。この食べ物を買うために、孫娘は安い賃金でどれだけ働き、また、自らの生活をどれだけ切り詰めているのか、想像すると胸が痛んだが、この食べ物がないと夏は越せない。命をつないでくれるメタに、ミニックは心から感謝していた。
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