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「麻紀からいつも、楽しい職場だって自慢されるんですよ。それに槻橋からも散々、憧れの先輩の話を聞かされていたので。お会いできて光栄です」
さすがに社交辞令だろうが、嫌味のない快活な笑顔はさっぱりと気持ちいい。しかし、塁はそれを聞いて血相を変える。
「風間さん、何言い出すんですかっ」
慌てて風間を遮ろうとする塁の横顔を、晴行はあれ? と見上げる。
「だって、起業の話に誘われて、その場で会社を辞めるって決心したくらい心酔してる先輩なんだろ?」
「風間さんやめてくださいって」
塁が、ちらりと晴行の方を見る。目が合うと、気まずそうに視線を逸らす。仏頂面がトレードマークみたいな男が、こんなうろたえたような顔をするのは珍しい。
「はいはい、立ち話してないでとりあえず中入りましょうよ」
こんなときに場を仕切るのは、しっかり者で気が利く麻紀だ。
「岡島さーん、キッチン使わせてもらいますねー」
普段はコーヒーを淹れたり夜食の弁当を温めたりする程度にしか使わないキッチンスペースで、麻紀が早速何やら食べ物の準備を始める。
「麻紀、なんか手伝おうか」
「いいから宏憲さんはお客さまらしく座ってて。塁、あんたも図体大きくて邪魔なだけだから」
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