Entracte 1

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Entracte 1

 自転車チームにおけるエースは、勝利という使命を一身に引き受ける人間のことだ。  個人競技という建前ではありながら実態はチームスポーツである自転車ロードレースでは、同じレースに出走しながら、自らの勝利を目標としない選手が数多く存在する。アシストと呼ばれる彼らの存在意義は、自分たちのチームのエースを勝たせることだ。そのために風よけとなり、集団のペースをコントロールし、ドリンクの入ったボトルや補給食をチームメイトの分も運ぶ。自分の成績は犠牲にしてエースのために働き、ときにはレース半ばで役目を終えてリタイアを余儀なくされる。  だからこそ、エースには結果を出すことが求められる。エースの勝利は、そのために尽力したアシストたちの勝利でもある。  晴行は、競技生活を通じてエースだったことは一度もなかった。自転車ロードレースに出走する晴行は、常に祐樹を勝たせるためだけに存在していた。そして祐樹はその晴行の献身を決して裏切らなかった。  浅い眠りの中で、晴行はまた、あの雨の高校総体の夢を見ていた。     
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