Entracte 1

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 悪天候の中、集団の動きが消極的なのを見て取った祐樹は、早い段階で大胆なアタックを仕掛けた。前に飛び出しぐんぐんと差を開いていく祐樹を、慌てて他校の選手が追う。主将でもあった晴行はその顔ぶれを見て、祐樹一人で十分と判断した。その後は、エースを自由に行かせるために集団の動きを制する役目を引き受けた。  しかし、誤算が生じた。雨の山道で祐樹のバイクの前輪がパンクしたのだ。  前方で立ち往生する祐樹に追い付いた晴行は、迷わず自分のホイールを差し出した。それはその時点で晴行自身のレースが終わることを意味していたが、晴行にとってはごく自然な行動だった。エースである祐樹の勝利以外に晴行の目指すものはなかったから。  祐樹はアクシデントを跳ね除け、見事独走優勝を飾った。それは、晴行の差し出したホイールの勝利でもあり、彼のために黙々と働いた自転車部全員の勝利でもあった。  明らかに特別な才能のない自分が自転車競技を続けられたのは、祐樹のため、という思いがあったからだった。  あいつのためなら、ホイールどころか自分の手足だって差し出せる。それで彼が栄光を掴んでくれるなら、それこそが自分の喜びだ。  その甘美な感覚がどこか恋愛感情に似ていることには、晴行も気付いていた。  それでもやはり、何度同じ夢を見ても、晴行は祐樹に対する自分の感情に名前を付けようがないのだった。  ひとつだけ、はっきりとわかっていることがある。自分はもう二度と、誰のためにもアシストはやらないということだ。     
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