運命なんて、明日には消える

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運命なんて、明日には消える

 春の教室は未来の話で埋め尽くされている。  目の前で繰り広げられる興味を持てない話を入れるスペースが、頭の中に残っていない。面倒や退屈が増殖し続ける頭の中に、ストロボライトのように明滅する光。それが何かを思い出せそうで思い出せず、光村崇史はシャツの袖のボタンを親指でいじりながら時間を潰している。 「十代の時に好きだったものは、一生好きなものです。これだと思える、自分を前へ走らせてくれるような大好きなものを見つけて下さい」  この四月、二年生の時と同じく担任になった小谷野先生は、最初のホームルームの挨拶でそんな話をした。 「学校は勉強だけをする場所ではありません。君達は受験がない分、好きなことをのびのびやれるチャンスです。最後の一年を最高の一年にしましょう」  大人の在り来たりの言葉はもう聞き飽きている。先生が思ってるほど、ここにいるみんなは純粋じゃないだろう。親や先生の言うことが全部真実で、その真偽を確かめずに全てを信じて抗わないなんて、ありえない。もうそんな年でもないのに、大人はまだ自分の影響力を信じてる。馬鹿みたいだ。崇史の目にはそんな風に写っている。     
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