運命なんて、明日には消える

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 そんな風に過ごしている内にまたお客さんが来たので、フォトブース撮影を売り込む。もうすぐ終わってしまう十代の、今この瞬間の楽しい気持ちを保存しようと、誰もがレンズに向かって笑顔を振りまく。大人になっても忘れないように。 「崇史、あとでさ」 「あっ、下の名前で呼んだ。学校では呼ばないって約束したじゃん」 「ちょっと間違えたんだよ」 「……間違っていいよ」  もっと間違えたらいいよ。  あれから何度も二人だけの時間を過ごして写真を撮ったけれども、崇史が望むような一線を越えてはくれない。あと何ヶ月かで卒業なんだから、それまでの我慢だ。先生と生徒じゃなくなれば自由だ、と思いながらも、もう小谷野のことを「先生」と呼べなくなるのも寂しいのだ。次の春が来るまで、教壇の上の先生を眺める生徒の立場を大事に過ごしたい。  校庭から突然、わーっと大きな歓声が上がる。何があったのかな、と小谷野は窓から様子を伺う。  どの瞬間も運命で、未来のための分岐点だったように思える。昨日持っていた未来と今日から先の未来は、違う未来だ。いつもと違う何かのせいで、未来なんて簡単に変わる。螺旋階段で目が合った瞬間、確かに運命だった。でもその運命をあのまま何もせずに放っておいていたら、枯れて無くなっていた。崇史が小谷野に写真を貰いに行かなければ、二人の未来は変わらず、ただの先生と生徒のままで卒業してしまっていた。運命が消えてしまわないように掴み取ったのだ。     
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