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その小谷野先生と他に誰もいない放課後の教室で、机二つ分を挟んで向かい合わせに座っている。こうやって二人きりで話すチャンスを、崇史はずっと待っていた。彼の眼鏡のレンズには自分の姿が映っているが、彼の目には本当に自分が映っているのだろうか。
「うん、去年までの成績は問題ないし、このまま頑張れば進路調査票の希望通りの学部に進めるよ」
小谷野は、数日前に提出した進路調査票やファイルに目を落としたまま話を進めていて、なかなか崇史を真正面から見ようとしない。どうしたらあの時のように、振り向かせられるのだろう。こういった畏まった雰囲気は苦手なので、早く終わって欲しくてそわそわと落ち着かない。窓の外では強い風がわずかに残った桜の花を奪い去るように散らしている。遠くから聞こえる吹奏楽部や運動部の練習の音。何もかもがまぶしすぎて、今の自分には不相応だと思う。
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