プロローグ

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 ────今日こそは。  そう決意を固めてはきたが、足取りは重い。予定外の残業のせいで辺りはすっかり暗くなっていた。  気温の変化も大きく朝晩冷え込むこの時期に、肩まであった髪をベリーショートに切ったばかりの首元は薄ら寒い。友人のマンションにつき、風が遮断(しゃだん)された建物の中に入るとほっと息をついた。  エレベーターのボタンを押し箱が降りてくる間、深呼吸を繰り返した。  今から自分は残酷なことを伝えなければならない。正当性を主張するだけなのに、それを思うと息苦しくて仕方がなかった。  もしかしたら気付いているだろうか?   いや、それはないだろうと即座に否定する。彼女はそういうことに(うと)いというよりは、視野に入れていないのである。
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