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急な打ち合わせで呼び出された椎名さんは、私を一人残していくことをもの凄く心配して、とりあえずベリーハウスに戻って待つかとまで言われたけれど、私はそれを断った。
今戻れば、椎名さんに輪をかけた過保護の凛が、どれだけ私を心配し甘やかすか目に見えていた。自分の世界を取り戻し、やっと絵を描き始めた凛の心を乱したくはなかった。これからは姉として、守られるのでなく守る側に立ちたいと思う。
「しばらく、ここで過ごしたい。海のそばでバカンスなんてほんとに久しぶりなの。一人でも大丈夫だから、夜には戻ってくるのでしょう?」
「もちろん、なるべく早く帰るよ。でも約束してくれるかな、お昼ご飯はちゃんと食べること。無理をしないこと、それから、余計なことは考えるな」
「わかった。約束する」
そう言った私の頭にポンと手を置くと、じっと目を見てふわっと抱き寄せられた。
「水貴は子供みたいに可愛いな、抱きたいけど時間がない」
「その台詞、矛盾してない?」
「してないよ、ほんとの子供じゃないだろ」
続きは今夜ねと言いながら、ついばむような軽いキスをして私を解放した。
たったそれだけのことなのに、離れたとたんにその胸の中に戻りたくなる。
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