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真実
焦りながらも宥める。ページが抜ける度に記憶も抜け落ちていった。そんな日々に不安を感じ、ついに友達の家に逃げ込むが一息つく間も無く客間から出てきたのは妹の姿だった。半ば諦め何時もの通り絵本を読み聞かせていた。だいぶ絵本のページも抜け最後のページだけが残された。その頃にはほとんど記憶というものが無く恐怖すら感じなくなっていた。
「バイバイ、お兄ちゃん」
おやすみではなく確かバイバイと最後言って眠りに着いた。疑問に思い念のためリビングのソファーで起きていたのだがいつの間にか睡魔に負けていた。全身に痛みが走り頭もぼんやりとしていた。ゆっくり目を開けるとそこには白い天井が映し出されていた。叫び声のようなすすり泣く声までもが聞こえくる。これは酷い。
「しゅう…秀……しゅ…」
なんだよ…母さん聞こえてるよ。呼びかけに応えるように瞬きをすると母さんは少し落ち着きを取り戻した。
「あのね、秀よく聞いて。あなたは事故にあったのよ。そして三日間昏睡状態だったわ」
また、意識が飛びそうになるの堪え唇を動かす。
「………いも…と……ゆう……か…は?」
そこで母さんはまた涙を流した。
「…手遅れだったわ。救急隊員が来た時にはもう…」
聞くのは充分だった。
数日後
やっと退院の日がきた。母さんが迎えに来ると一冊の絵本を渡された。ページの抜けていないあの繰り返し読んだあの絵本だった。
「ゆうかちゃんのお気に入りの絵本よ。これね秀に読んで貰うってとても楽しみにしていたわ…」
それ以上、説明はいらなかった。紙切れが一枚ヒラリと落ちるとそこにはクレヨンでアリガトウと書いてあった。拾い上げる時にはもう涙を流していた。
「ありがとう…」
小さく嗚咽混じりに感謝の言葉をはいた。
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