第10章

17/26
前へ
/26ページ
次へ
思い立ったように由莉が席を立った。 身体は完全に前屈みで 「あ……痛てっ!」 立ち上がった拍子にテーブルの角で 派手に膝を打ち付けて――。 倒れそうになったコーヒーカップを なんとか長い指で抑えながら 「来たかったら……ついて来てもいいんだぞ?」 それでもクールなふりして 僕を誘うから――。 「いや……今は大丈夫です」 「じゃ、じゃあ俺は行くから……!」 僕らは互いに吹き出すのを堪えて その背中を見送った。 「それじゃ、僕ももう行くよ」 「先生も?」 「ああ。週末に仕事を持ち帰らないように」 去り際。 冬馬は僕ら兄弟を交互に見つめると うっとりとした顔つきで微笑んだ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加